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札幌地方裁判所 平成8年(わ)1241号 判決

本店所在地

札幌市中央区大通西八丁目二番地三九

北日本興業株式会社

右代表者代表取締役

前義視

本籍

札幌市南区澄川四条九丁目四四二番地五

住居

同市同区澄川四条九丁目一九番六号

会社員(相談役)

草野馨

昭和一八年一月一八日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官小林登、弁護人橋本昭夫(主任)、山根喬、矢野修、大川哲也各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人北日本興業株式会社を罰金一億二〇〇〇万円に処する。

被告人草野馨を懲役二年六月に処する。

被告人草野馨に対し未決勾留日数中三〇日を右刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人北日本興業株式会社(以下「被告人会社」という。)は、札幌市中央区大通西八丁目二番地三九に本店を置き、土木建築の設計施工等を目的とする資本金一億七二〇〇万円の会社であり、被告人草野馨(以下「被告人草野」という。)は、被告人会社の代表取締役としてその業務全般を統括していたものであるが、被告人草野において、被告人会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、雑収入を除外するなどの不正な方法により所得を秘匿した上、

第一  平成五年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が五億一九八一万一九三六円であり、これに対する法人税額が一億八八六四万九二〇〇円であったにもかかわらず、平成六年二月二八日、札幌市中央区大通西一〇丁目所在の札幌中税務署において、同税務署長に対し、所得金額が八四九五万八二一三円で、これに対する法人税額が二五五七万九三〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限である同日を徒過させ、もって不正の行為により、被告人会社の右事業年度における正規の法人税額と右申告税額との差額一億六三〇六万九九〇〇円を免れ

第二  平成六年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が五億二九八五万四〇七七円であり、これに対する法人税額が一億九五八八万〇七〇〇円であったにもかかわらず、平成七年二月二八日、前記札幌中税務署において、同税務署長に対し、所得金額が六六六四万九四四〇円で、これに対する法人税額が二二一七万八九〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限である同日を徒過させ、もって不正の行為により、被告人会社の右事業年度における正規の法人税額と右申告税額との差額一億七三七〇万一八〇〇円を免れ

第三  平成七年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が四億三五一六万七五一六円であり、これに対する法人税額が一億六二四八万四二〇〇円であったにもかかわらず、平成八年二月二九日、前記札幌中税務署において、同税務署長に対し、所得金額が四七八万五五三五円で、これに対する法人税額が一〇九万〇九〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限である同日を徒過させ、もって不正の行為により、被告人会社の右事業年度における正規の法人税額と右申告税額との差額一億六一三九万三三〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)(括弧内の甲、乙の番号は証拠等関係カード記載の検察官請求証拠の番号を、弁の番号は同カード記載の弁護人請求証拠の番号を示す。また、立証事実が全事実でないものについては、その都度当該事実を掲げる。)

一  被告人の公判供述

一  第一回公判調書中の被告人の供述部分

一  第四回公判調書中の被告人北日本興業株式会社代表者代表取締役前義視の供述部分

一  第二回公判調書中の証人濱中徹の供述部分

一  被告人の検察官調書(八通、乙一ないし八。乙一は判示冒頭)

一  大橋正治(四通、甲一四ないし一七)、櫻庭髙光(甲一八)、橋場克己(甲一九、判示第三)、前義視(六通、甲二〇ないし二五)、穴沢静子(二通、甲二六・二七)、髙山厚子(三通、甲二八ないし三〇。甲二九は判示第三)、濱中徹(二通、甲三二・三三)、石川喜代春(甲三四)、白鳥秀信(甲三五)の検察官調書

一  商業登記簿謄本(乙九、判示冒頭)

一  給与手当調査書(甲二、判示第三)、通信費調査書(甲三、判示第三)、租税公課調査書(甲四)、支払手数料調査書(甲五、判示第三)、受取利息調査書(甲六)、雑収入調査書(甲七)、固定資産除去損調査書(甲八、判示第三)、仮払消費税調査書(甲九、判示第三)、事業税認定損調査書(甲一〇)、損金の額に算入した道民税利子割調査書(甲一一)、貸倒損失の認否について調査書(甲一二、判示第三)

一  調査事績報告書(甲四六)

一  中寺俊恵の質問てん末書(甲三一)

一  捜査報告書(甲四七)

一  押収してある平成五年一月一日、平成五年一二月三一日事業年度分の確定申告書等綴一綴(甲三八、判示第一)

一  押収してある平成五年一月一日、平成五年一二月三一日事業年度分の修正申告書等綴一綴(甲四一、判示第一)

一  押収してある平成六年一月一日、平成六年一二月三一日事業年度分の確定申告書等綴一綴(甲三九、判示第二)

一  押収してある平成六年一月一日、平成六年一二月三一日事業年度分の修正申告書等綴一綴(甲四二、判示第二)

一  押収してある平成七年一月一日、平成七年一二月三一日事業年度分の確定申告書等綴一綴(甲四〇、判示第三)

一  押収してある平成七年一月一日、平成七年一二月三一日事業年度分の修正申告書等綴一綴(甲四三、判示第三)

(法令の適用)

被告人草野の判示各所為はいずれも法人税法一五九条一項に該当するので、各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、右は平成七年法律第九一号附則二条二項前段により同法による改正後の刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人草野を懲役二年六月に処し、平成七年法律第九一号附則二条三項により同法による改正後の刑法二一条を適用して未決勾留日数中三〇日を右刑に算入することとする。

被告人草野の右判示各所為はいずれも被告人会社の代表者である被告人草野が被告人会社の業務に関してしたものであるから、被告人会社に対してはいずれも法人税法一六四条一項により同法一五九条の罰金刑を科すべきところ、その多額については、いずれも情状により同条二項によることとし、右は平成七年法律第九一号附則二条二項前段により同法による改正後の刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算した金額の範囲内で被告人会社を罰金一億二〇〇〇万円に処することとする。

(量刑の理由)

一  本件は、被告人会社の代表取締役であった被告人草野が、いわゆるバブル景気崩壊による不動産業界の不況により被告人会社の建築工事受注件数が減少する中、同社を中心とする北日本グループ全体の経営が苦しくなった場合等に備えて簿外資金を蓄えようと企て、平成五年一月から平成七年一二月までの三事業年度にわたり、株式会社三井(以下「三井」という。)からの違約金収入(以下「本件違約金収入」という。)について雑収入としての計上を除外するなどの方法により、合計約一四億円の所得を秘匿して虚偽過少の法人税確定申告をし、被告人会社の法人税合計約四億九八〇〇万円を免れたという事案である。

二  本件は、ほ脱税額が巨額である上、ほ脱率も通算で九一パーセントを超えており、被告人草野の納税意識は甚だ低いと言わなければならない。被告人草野は、不動産業界の不況にあって、被告人会社及び北日本グループ各社の存続と従業員の生活を守るため、本件犯行に及んだというのであるが、これは、結局のところ、被告人会社及びそのオーナーである被告人草野の利益のために本件犯行に及んだというのにほかならず、たとえ被告人草野が本件違約金収入を私的に流用した事実はなかったとしても、このことが脱税を容認する理由となり得ないのは当然であり、動機に酌量の余地はない。被告人草野は、本件違約金収入を隠し通すため、これが発覚した場合の対応をも含む綿密な計画を立て、当時名目上被告人会社の共同代表取締役となっていた大橋正治(以下「大橋」という。)を巻き込み、本件違約金収入が同人関連の収入であるかのように見せかけるなどした上で本件犯行に及んだのであり、犯行態様は計画的かつ狡猾で悪質である。また、本件発覚後には、大橋が犯行の主導者であるかのように見せかけ、貸倒の主張によるほ脱税額の減額をもくろみ、部下に命じて虚偽の書類を多数作成させたり、部下に対して内容虚偽の詳細なメモを交付し、国税調査において虚偽の供述をさせるなど、組織を意のままに動かして、執拗かつ詳細な罪証隠滅工作を行っており、犯行後の態様も極めて悪い。被告人草野は、公判においても、本件違約金収入について確定申告をすべき時期に申告をしなかったことは認めるものの、後記のように、最終的には全額について修正申告をするつもりであったなどと不合理な弁解を繰り返しており、本件犯行に対し真摯に反省しているとは到底認められない。また、被告人両名には、本件と全く同様の法人税法違反の前科があり、被告人草野においては、右法人税法違反の裁判において執行猶予付きの判決を受け、巌に身を謹まなければならない右猶予期間中に本件違約金を簿外資金とすることを思い立ち、そのまま本件犯行に及んでいるのであって、その規範意識の鈍磨は甚だしく、また、このような被告人草野のワンマン会社であるという被告人会社の体質を考えると、被告人両名の再犯のおそれも否定できない。さらに、このような被告人草野の行為は善意の納税者の納税意欲を阻害するものであって、本件の社会的影響も大きかったことなども併せ考慮すれば、被告人両名の犯情は悪く、その刑事責任は重いといわなければならない。

三1  なお、弁護人は、被告人草野において本件違約金収入を最終的に隠匿する意思はなかったと主張し、被告人草野も当公判廷において、平成四年一二月当初は、本件違約金収入については各事業年度毎に確定申告を行うつもりであったが、平成五年一二月ころ、はまだ電気工事株式会社(以下「はまだ電気」という。)の倒産を機に、はまだ電気の債務を保証していたハシバ工業株式会社(以下「ハシバ工業」という。)も近い将来倒産し、被告人会社と不可分一体の関係にある北日本信販株式会社(以下「北日本信販」という。)のハシバ工業に対する貸付金が回収不能となり、ハシバ工業に対する貸倒金が発生するに違いないと考えるようになったため、本件違約金収入を右貸倒金損失に引き当てるため、その申告時期を見計らっていたものであり、最終的には本件違約金収入全額について申告をする意思であった、などと所論に沿う供述をする。

しかし、被告人草野の供述経過等に鑑みると、被告人草野の右供述は信用し難く、関係証拠によると、被告人は、前記のとおり、本件違約金収入を隠し通すために綿密な計画を立ててこれを実行した上、国税局の調査を受けた後も種々の画策をするなど、最終的には全額申告するつもりであったというのとは相容れない行動を取っていたことが明らかである。

すなわち、被告人草野は、本件の外形的事実は当初から争っていなかったのであるから、仮に本件違約金収入について最終的には全額申告を行なう意思を有していたのであれば、この点は捜査の当初から明確に供述されていてしかるべきであるのに、逮捕直後の平成八年一一月二七日付け検察官調書(乙二)にはそのような供述が全くないばかりか、国税局に発覚しなければそのままにしておこうと考えていた旨の供述があり、その後の検察官調書になって所論に沿う供述をするに至ったが、それ以前の段階においてそのような供述をしなかった理由や、捜査の途中で初めてこれを供述するに至った理由については、これらの検察官調書及び公判を通じて、何ら合理的な説明がなされていない。さらに、本件違約金収入について最終的には全額申告する意思であったとする検察官調書及び公判供述をみても、平成五年度分及び平成六年度分の違約金収入をいつ申告する意思であったという重要な点について変遷がある。また、本件違約金収入を右貸倒金損失に引き当てるため、その申告時期を見計らっていたというのであるが、法人税では累進税率制度を採用していないため、高率の延滞税を払ってまでその計上の時期を遅らせる理由は乏しく、むしろ被告人会社にとっては不利となるなど、その供述内容自体も不合理である。従って、所論に沿う被告人草野の供述は信用し難い。

加えて、関係証拠によれば、前記のとおり、所論とは相容れない被告人草野の行動等が認められるが、なかでも、(一)被告人草野は、平成四年一一月ころ、当時被告人会社の名目上の代表取締役であった大橋に対し、本件違約金収入の脱税に協力して欲しい旨依頼していること、(二)被告人草野は、平成五年一二月ころ、本件違約金収入の脱税計画を記載した(秘)メモ(大橋正治の検察官調書・甲一五に添付のもの)を作成しているところ、このメモには本件違約金収入を国税の時効完成時まで隠し通したい旨の記載があること、(三)このメモに記載されている本件違約金隠匿のための計画の主眼は、本件違約金収入が国税局に発覚した場合は、これを大橋関連の収入であるかのように見せかける、という点にあったとみられるところ、右計画に沿った行動等が現実にとられていること(大橋が代表取締役を務める北日本観光株式会社の事務所がメモに記載のある北海道ビジネスビルに移り、同人の給料等が簿外預金の利息から支払われていたり、本件違約金収入が、新たに開設された被告人会社代表取締役大橋名義の銀行口座に入金された後、一度大橋個人名義の銀行口座に移されていること、被告人草野は、本件発覚後、国税局等に対し、本件脱税の主導者は大橋である旨の説明をしていることなど)といった事実は、その端的な現れである。

弁護人は、(一)に関し、その旨述べている大橋の検察官供述は、被疑者として逮捕され、場合によっては起訴されるかもしれないという立場にあった者の供述であり、事実を婉曲・誇張し、あるいは検察官に迎合してなされた可能性があるとして、その信用性を争うとともに、被告人会社と三井との間に和解契約(以下「本件和解契約」という。)締結当時、三井が和解合意書(大橋の検察官調書・甲一四添付のもの)記載のプロジェクトを履行する可能性は十分にあり、被告人草野も違約金の支払よりプロジェクトの履行を望んでいたのであるから、平成四年一二月当初から本件違約金の受領を前提にこれを隠し通そうと考えていたはずがない旨主張する。しかし、大橋の供述は、同人の複数の検察官調書相互間に内容的な矛盾がなく、個々の供述内容は具体的かつ詳細で、本件和解契約締結当時の関係者の行動及び契約形態の変遷の経過等とも整合するものである上、大橋自らも脱税の共犯となり得る不利益供述であること、さらに右供述は、当初被告人草野の指示で国税局に対してしていた内容虚偽の供述を覆してなされたものであることなどに鑑みれば、その信用性について疑いを挟む余地はない。また、櫻庭髙光の検察官調書(甲一八)等の関係証拠によれば、本件和解契約締結当時、三井側としては前記プロジェクトの履行は全く考えておらず、全てを違約金で精算するつもりであったこと及び被告人草野もこれを前提として三井との間で交渉を行い、その結果本件和解契約が締結されたと認められることなどから、当時三井がプロジェクトを履行する可能性は十分にあったとする右主張も採用できない。

また、弁護人は、(二)及び(三)に関し、被告人草野は右メモを平成六年一月に撤回しており、その証拠に右メモ記載の計画には実行されていないものもあるなどと主張し、被告人草野もこれに沿った供述をする。しかし、右メモにより脱税を指示された大橋は、右メモの撤回については一切供述しておらず、また、前記のとおり、右メモ記載の計画の主眼に沿った行動等が現実になされているのであって、所論に沿う被告人草野の弁解を容易に信用することはできない。

これらに加え、関係証拠によると、被告人草野は、ほかにも、(一)国税局の任意調査の翌日である平成八年三月一二日、濱中徹税理士に対して、大橋個人で三井から違約金収入があったが、申告していなかった旨説明していたり(濱中の検察官調書・甲三二など)、(二)そのころ、大橋の主導で脱税を行ったように見せかけるため、部下に命じて架空の書面を作成させたり(前義視の検察官調書・甲二二、髙山厚子の検察官調書・甲二八など)するなど、最終的には全額申告する意思があったという供述とは到底相容れない行動等をとっている。

この点、弁護人は、被告人草野が、大橋の主導で脱税を行なったように見せかけようとしたことについては、大阪の弁護士の方針であった旨主張し、被告人草野も当公判廷でこれに沿う弁解をする。しかし、関係証拠によれば、被告人草野が知人から右弁護士を紹介されたのは平成八年四月のことであるのに対し、被告人草野の右指摘の行動等はいずれもそれ以前のものであるから、右弁解は不合理である。

その他、弁護人が、被告人には本件違約金収入を最終的に隠匿する意思はなかったとして挙げる諸点を検討しても、関係証拠上そのような事実が認められなかったり、仮に認められてもその根拠となり得ないか、または、根拠とすることが不合理なものなどであって、前記の認定を左右するものではない。

2  また、弁護人は、ハシバ工業の北日本信販に対する借入金債務について、被告人会社と北日本信販との間に連帯保証契約が締結されているのと同様の評価ができるところ、被告人会社は、右連帯保証関係に基づき、ハシバ工業の北日本信販に対する債務を代位弁済したものであるから、北日本信販のハシバ工業に対する債権に代位すれば、債権償却特別勘定により、右債権をハシバ工業の倒産に伴う損金として処理できた可能性も十分あったのであり、平成七年度のほ脱額は実質的にはゼロと評価できると主張し、被告人草野も当公判廷等でこれに沿う供述をしている。

しかし、関係証拠を精査しても、右連帯保証契約の存在はもとより、被告人会社と北日本信販との非常に緊密な関係を考慮しても、なお被告人会社が右債務を実質的に連帯保証をしていたと認めることはできず、代位弁済についても、これがその実体を備えていたかどうか大いに疑問があることなどからして、所論はその前提を欠き失当である。

すなわち、被告人草野の供述中、連帯保証関係の存在等に関する部分は、国税局の任意調査後、部下に命じて、被告人会社・北日本信販間の連帯保証契約書等の書類を日付を遡らせて作成させているといった被告人草野の行動等に加え、連帯保証契約ないしこれと同視できるような実体があれば、その旨の供述記載があるはずの、当時の北日本信販の融資担当者で右貸付に直接関与した前義視(以下「前」という。)や、ハシバ工業の橋場克己の検察官調書中に、そのような記載がないことなどからして信用できない(確かに、被告人草野がハシバ工業に対する融資に当たり、被告人会社が責任を持つと関係者に述べていた事実は認められるが、これは右融資が回収不能となった場合でも、北日本信販には経営上の責任を追求しないという程度の意味であったと考えられる。この点について前は、検察官調書(甲二〇)で、もともと北日本興業が北日本信販に対して有していた債権を放棄するだけでも良かった旨述べている。)。

また、被告人草野の供述中、代位弁済に関する部分についても、関係証拠によれば、被告人会社は、本件代位弁済自体を正規に会計処理していたことは認められないことや(確定申告書添付の決算報告書・甲四〇には貸付金としてこれに相応する金額の記載がなく、従って、税務申告上、ハシバ工業に対する債権を取得したことにはなっていない。)、平成七年七月ころまでは毎月末の残高として八億円から一〇億円程度あった当座預金残高が、同年一〇月末には二億円程度に急減し、被告人会社の経理担当者である穴沢静子(以下「穴沢」という。)も述べているように(甲二七)、同年一一月の手形決済時点では、資金ショートの不安が付きまとう状態にあったところ、当時被告人会社が他に相当額の定期預金等を有していたとしても、当座預金残高が増えない限りこのような状態は解消できなかったなどを併せ考えると、被告人草野においては、代位弁済後に北日本信販から被告人会社に資金を戻し、簿外資金の一部を表に出すことによって、被告人会社の当座預金口座の資金不足を解消しようとしたとみるのが自然であることなどと対比して、やはり信用できない。

四  そうすると、被告人会社において、本件発覚後、前記各事業年度について修正申告を行い、延滞税も含め、既に合計九億円余を納税済みで、未納分の二億円余についても今後納税させる見通しであること、公判において、被告人会社の現在の代表取締役前及び常務取締役穴沢が、具体的方策については未だ明確に定まっていないようではあるが、被告人会社の体質改善のために努力する旨供述していること、贖罪として被告人会社名義で更生保護協会に三〇〇万円の篤志寄付が行われているほか、被告人草野においては、本件に巻き込んだ大橋に対し、相応の慰謝をしていること、公判において、被告人草野の妻が、被告人草野の更生への助力を誓っていること、被告人草野が収監された場合、被告人会社及び北日本グループ各社はもちろん、下請会社にも多大な影響が及ぶと予想されることや被告人草野の家族の状況など、被告人両名のために酌むことのできる諸事情を最大限に斟酌しても、それぞれ主文掲記の刑に処するのが相当である。

(求刑 被告人会社について罰金一億五〇〇〇万円、被告人草野について懲役三年)

(裁判長裁判官 髙麗邦彦 裁判官 島夕香子 裁判官若園敦雄は、海外出張のため、署名押印することができない。裁判長裁判官 髙麗邦彦)

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